大局を描くのが苦手な人へ。『仮説思考』読書ノート(前編)

読書ノート

問題意識――「全てを把握してから」でないと取り掛かれない!

私の長年の問題意識の1つが「網羅思考に陥りがち」という点である。仕事に取り掛かる際、万全を期すため可能な限り多くの情報をインプットし、緻密に1つ1つのステップを重ねていきながら、少しずつゴールに近づいて結論を出そうとする。仕事で未知の専門知識が出てくれば思考を止め、1つずつ調べてから取り掛かる。―――これは典型的な網羅思考である。

入試の対策手法が分かりやすい例だろう。入試対策の目的は言うまでもなく「合格」することだ。目的志向で動き、逆算思考をするタイプの人は、

合格するために必要なことは何か考え→そのための方針を策定→実行手順の組立→実行

と、常に目的を念頭に置いてさくさく進めていく。最低限の努力だけで目的を達成しようとする。一方、網羅思考の私は、

まず目の前の知識をインプット→それを積み上げていく→合格レベルへ到達→合格

と進めてしまう。1つ1つの課題をこなし知識を網羅し、ゴールへ近づいていくのである。概ねの学校教育ではこれと同じように「日々コツコツ勉強を重ねること」を奨励しているため、多くの受験生がこのように勉強しているだろう。

しかし、この網羅思考には決定的なデメリットが2つある。1つ目が「時間がかかりすぎる」もしくは「時間がどれほどかかるか未知数」という点だ。納期が定められておりスピード感のある対応が求められるビジネスの世界では、時間がかかりすぎることは致命的になり得る。また、ビジネスだけでなく、限られた時間の中で一定の成果を出さねばならない卒論研究などでも、網羅思考をしていては結果が十分出ずに終わってしまう(そしてそういった学生を何人か見てきた)。

デメリットの2つ目が「細かい点ばかり網羅し全体像が描けない」という点である。将来、組織の上流過程(≒マネジメント層)に”出世”したいのであれば、全体像を描き、全体における自分の位置を常に意識できるようになることは必須であろう。研究でも、まず論文全体のアウトラインを描けるようになることで「今自分って何しているんだ」(←よく発生する)と悩むことが減る。

そこで、仮説思考である(唐突!)。なんと、仮説思考は網羅思考の2つのデメリットを克服できるらしい。
今回参考にした書籍は、内田和成『仮説思考』(2006.3, 東洋経済新報社)。「大局が描けない」「仕事/研究に時間がかかる」と悩みを抱いている人、私と一緒に「仮説思考」の世界を覗いてみよう。

仮説思考の正体とそのメリット(序章)

仮説とは何か

著者は、「仮説」を以下のように定義している。

仮説とは読んで字のごとく「仮の説」であり、(中略)「まだ証明はしていないが、最も答えに近いと思われる答え」である。引用元:『仮説思考』p.16

私は、仮説=「発想・勘」+「論理的根拠」と解釈した。「こんな感じかな」という発想・勘に、「なんでこんな感じと思ったか」という論理的根拠が足されたものが仮説。
まだピンとこない方は下の例を見ていただきたい。

例:下の写真を見てみよう。水車があるぞう。何をしているんだと思いますか?

Aさん「モーターで水車を動かして水を循環させているんじゃない?水が濁るのを防いでいるんだよ。」
Bさん「いや、水の流れを生かして発電しているんだよ。外から電線を引いていないから、自家発電しているのさ」

→この2人の意見は立派な「仮説」である。しかし当然、良い仮説と良くない仮説がある

良い仮説の条件:「掘り下げられている」(p.140)
〈どういうことかというと…〉
⇒ざっくりしていない。仮説の根拠が明確になっている。(例:「銭湯ではアイスの売上が多い」より「銭湯では湯上りで熱いので冷たいものを欲しアイスの売上が多い」の方が良い仮説)
└立てた仮説に対し「Why so?」(どうしてそうなの) と「So what?」(だから何だろう)を繰り返しぶつけることで掘り下げることが可能。
★これにより、仮説が正しかった時、すぐに次の行動へと結びつけることができる

いまいち「仮説」という言葉がピンとこない人は「推理」を思い浮かべるといい。ミステリ小説の名探偵がする「推理」だ。名探偵も、まず登場人物のアリバイなどから仮説を立て、状況証拠を集めてそれを検証する作業をする。これも仮説思考の1つだろう。

なぜ仮説思考をするのか(第1章)

1.仕事が早くなる

情報は多ければいい、というわけではない。不要な情報が多すぎる地図では目的地につけない。仮説があれば、それが取捨選択の軸になる。

例:白米が苦手な娘に白米を食べさせたい!とスーパーへ行く。
仮説:娘は甘いものが好きなので、甘口のご飯のお供を買っていけば食べてくれるのでは?

この目的と仮説を持ってスーパーへ行けば、たとえお茶漬けの素が安売りしてようが、夫が好きなふりかけが入荷していようが、惑わされずスピーディーに意思決定できる。

また、仮説を確かめるために「何の情報をどう集めるか」が自然と決まり、無関係な情報を集める手間が省ける。上の例でいえば「甘口のご飯のお供」を探せばいいのだから、しょっぱいお供や納豆などの情報は集めなくて良い。仮説がないと「美味しいお供は何か」というリサーチから始めねばならず、買い物に出発→購入までの時間が長くかかってしまう。

2.先見性、決断力を高める

著者は「ビジネスパーソンには先見性・決断力・実行力が重要」(p.28)と書いているが、この3つの力はビジネスに限らず、不確実性の高い現代社会を生き抜くために求められる力である。

先見性=「前を見て」、
決断力=「そこへ向けて踏み出すと決め」、
実行力=「着実に進む」。

しかし、根拠がなければ前を見ることも踏み出すと決めることもできない。むしろ無根拠で踏み出すのはただの「無謀」である。だが、仮説を持つことで行動の根拠が得られる。(言い過ぎた。仮説を検証していくプロセスで根拠を固めていくことができる、の方が正しい)
仮説思考を繰り返し、鍛えていくことで、良い仮説を持つ力がつく。良い仮説を持てば、上の3つの力のうち「先見性」「決断力」が育っていく。

3.全体像が見えてくる

仮説を立てた初期段階では、仮説とは言えないような単なるアイディアや思い付きかもしれない。それをそのままで終わらせてはただの絵空事になってしまうので、必ず仮説を検証することが必要となる。その際、仮説を支持する証拠を集めていく作業をするのだが、仮説をスタート地点としてそこから芋づる式に考えを派生させていけば、仮説をとりまく状況がクリアに見えてくる。

〈まるで『半沢直樹』の展開のように!〉
「●●工業の会計書、ここ変だな」→「△△社から不正な出金が!」→「こ、これは…粉飾決算だ!」

まさに、小さな違和感から状況を予想し(=仮説を立てて)証拠を集める半沢直樹方式で、物事の全体像が見えてくる。これは、まず最初に仮説を持たなければ通ることのできないプロセスである。

さらに、仮説が間違っているのであれば、証拠集めの段階で「うーん仮説に沿う証拠が出てこないぞ」「むしろ反証する証拠が出てきてしまった…」といったことが起き、仮説の軌道修正ができる。軌道修正のプロセスでも、最初の仮説が違った理由から派生して考えを展開していくことが可能であり、全体像の理解を助けてくれるので、間違った仮説を立てたとしても無駄にはならない。

さて、後編では「仮説思考の使い方」「仮説の立て方」、そしてちょっとしたコメントを記載していきます。

仮説はどう使う?どう立てる?『仮説思考』読書ノート(後編)
先見力と決断力を高めてくれる「仮説思考」。この『仮説思考』読書ノート後編では「仮説の立て方」「仮説の使い方」について触れました。前編もぜひご覧あれ。

出典

  • 内田和成『仮説思考』(2006.3, 東洋経済新報社)

 

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