きちんと学んで資産を守ろう。『あぶない家計簿』読書ノート

読書ノート

はじめに

今年1月、FP(ファイナンシャル・プランナー)3級の試験に合格し、晴れてFPの仲間入り(?)を果たした。将来FPとしてのキャリアを歩むつもりは今のところないが「お金の勉強がしたい」という気持ちから勉強を開始。それ以来、資産や投資に対する意識が高まり、お金 ――特に家計にまつわる本が目に付くことが増え、最近読んでいる。

今日は、その中でも特に印象に残った本から得た学びを紹介しよう。参考にした書籍は横山光昭『あぶない家計簿』。この本は、FPである著者が実際に行ったコンサルティング事例を基に、「高収入なのに、貯蓄が少なく、老後資金が不足する世帯」の家計簿を紹介している。他人のお金の使い方というものは普段目にする機会は稀だし、親しい人であっても「どれだけ資産があるか」「どうお金を守っているか」などを訊ねることはあまりない。そのため、人はお金の稼ぎ方も使い方も、我流でいくor親の使い方が身についているケースが大半だろう。私もこの本を読んで「世の中にはこんなお金の使い方をしている人がいるんだなあ」とびっくり。びっくりするだけでは学びにはならないので、なぜこうした家計が生まれるのかというところを本記事では考えていこうと思う。

高収入世帯の2種類の浪費…何を買い浪費しているのか

本書で紹介されている世帯の家計を見ていて気付いたのが、高収入世帯がしてしまう浪費には大きな2つの「動機」が存在していた。

①Time is money

簡単に言えば「時間をお金で買おうとする」思考。夫婦が共働きの場合、ご飯の支度など家事は外注してしまう方が手間は省けるし、どちらが家事をするかでもめることも減るし、仕事だけに集中できる。よくビジネス書でも「時間を金で買え」と勧めており、「満員電車で疲れを蓄積するくらいならタクシーorグリーン車で移動しながら仕事をしよう」などといった主張がされているのを目にする。しかも高収入世帯は、毎月の給料の額面だけを見れば家事の外注をする余裕はあるのだから、手を伸ばしてしまう気持ちも分からなくはない。

しかし、ここは立ち止まってよく考えるべきだ。何のために働くのか?答えは人それぞれに違いないが、もしもそれが「お金を稼ぐこと、生活すること」なのであれば本末転倒かもしれない。ごめんなさい私はまだ学生で社会人の厳しさが分からないので偉そうなことを言った気がしてきました。

②周りの目を気にした「プチ贅沢」

  • みみっちいのが嫌
  • いい暮らしを楽しみたい
  • 皆が持っているものをそろえたい
  • 余裕があるからこそ「少しいいもの」を買いたい

これらは皆「プチ贅沢」である。自分が欲しいものを購入する、というより、他人と比較して他人に劣らないために購入する…いわば他人の指標を内在化している支出である。これは、カリスマホストのローランドみたいに外車を乗り回して派手な家を持って…といった贅沢ではないものの、継続的に家計に降りかかって着実にお金をかすめ取っていく支出である。この「プチ贅沢」が重なり、家計を圧迫している家計を著者は「メタボ家計」(p.17)と呼んでいる。

なぜ浪費してしまうのか

「なぜ浪費してしまうのか」については、①個々の世帯によって異なる「個人的要因」と、②社会全体が浪費を促進してしまっている「社会的要因」の2つに分けられるように感じた。

個人的要因

①現状を知らない

  • 家計簿をつけていない、家計簿をつけているけど適切ではない
    ⇒クレカや電子マネーは、決済履歴がネットで閲覧できる…と紙データで記録を残さない
     →勿論家計簿アプリなどと連動して管理している人もいるが、結局整理しなければ履歴が溜まっていくだけ。
  • 夫婦で家計を共有していない
    ⇒夫婦がお互いの収入・支出を個人で管理しており、家計全体に目を向けていない
     →「自分は●●費を払っているから貯蓄が少ないけど、その分相手が貯めているだろう」という甘い期待
     →二人ともこの思考に陥り「じゃあ自分は貯めなくていっか」とプチ贅沢に使ってしまう

こうして自分たちの現状の資産と負債が可視化されていないと、将来の家計に対して「なんとかなるだろう」と楽観視してしまう元凶となる。例えば「住宅ローンが残っているけど退職金をあてればいいや」「年金があるし」などと曖昧に考えていると、貯蓄を怠り老後資金を減らしてしまう。特に高収入世帯は、稼ぐ力が強い現役時代は、月々の支出が大きかったとしても収入でカバーできてしまうため、支出の見直しをする機会が少ない。しかしリタイアすれば稼ぐ力は当然0となるため、支出を見直さない限り貯蓄を切り崩していくこととなる。だからこそ、両学長の提唱する「お金にまつわる5つの力」の「②稼ぐ力」だけでなく、「①貯める力」そして「④守る力」が必要となってくるのだ。

②金融リテラシーのなさ

『あぶない家計簿』を読んでいて思ったことは「みんな生命保険払い過ぎでは?」ということ。民間の生命保険はあくまで、国の公的保険を上回ってしまう支出に備えるものである。日本が用意している公的保険の充実度は本当にすごい。間違いなくあらゆるリスクに備えられている。

例えば、女性にとって企業の「育休・産休制度」は無視できない項目ではある。もしも入りたいと思う企業があまり充実したマタニティ制度を持っていなかったとしよう。しかし、会社員・公務員であれば出産時に出産一時金として42万円、出産前42日間・出産後56日間には出産手当金として月給の約2/3(※)がもらえることはご存じだろうか?つまり、企業が独自の制度を充実させていなかったとしても、公的保険である程度はカバーできるのである。勿論、独自の制度が充実しているのに越したことはないのだが。

※正しくは「支給開始日の以前12カ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×(2/3)」
こうした公的保険への知識が、日本の社会人には驚くほど不足しているように思う。そして、国がどの程度保障してくれるのか分からないからこそ将来を不安に思い、余計な生命保険に入ってしまうのだろう。

社会的要因

①晩婚化

晩婚化も老後資金を減らす一因となっている。結婚が遅れることで自然と出産が遅れ、子どもが育つにつれて「教育資金」という支出が増えていく。すると、本来リタイアを意識した貯蓄を開始すべき時に、子供の教育資金としてお金が出て行ってしまうのだ。また昨今は高学歴化が著しいため、子どもに学歴をつけさせたいと願えば願うほど、塾代や私立校への授業料など、必要となる教育資金は増えていく。

②学校でお金の勉強をする機会がなさすぎる

今回私が声を大にして言いたい全ての元凶が「学校でお金の勉強をする機会がほぼない」ということだ。

私は高校の現代社会であたった先生が、きちんと「年金がもらえる最低月数」(120か月)や「機会費用」の考え方などを教えてくれたのである程度の知識があったが、私のパートナーは「高校の現代社会では倫理の内容ばかりやっていた」と言っていた。彼の高校は、徹底的に国公立合格を目指させる学校だったため、倫理政経での受験者のためにやっていたことなのかもしれない。とにかく、我々は学校教育の中でお金にまつわる知識をほとんどつけないまま、社会に放り出されている。

特に「投資=ギャンブル」だと思っている人は、投資が浸透し始めている若者の中でもまだ多い。『あぶない家計簿』著者の横山光昭さんは『3000円投資生活』という本も書いており、そこでは「長期保有を念頭に置いていれば、投資はギャンブルではない」と主張している。

お金にまつわる知識がなければ、不安を煽ってお金をむしり取ろうとしてくる金融業者の格好の餌食となってしまう。これを防ぐためにも、ぜひ学校でお金の教育をしっかりしてほしいところなのだが…。「お金のことをとやかく言うことはみっともない」という「嫌儲」的考えが教育とは切っても切り離せないので、なかなか公的に教育を拡充するのは難しいかもしれない。だとしたら個人でやっていくしかないだろう。

おわりに

社会人になる時にまず考えることは「どうすればお金が多く稼げるか」かもしれない。しかし、お金を増やすためには「収入を増やす」か「支出を減らす」の2通りしかない。「収入を増やす」には、自分の市場価値を高めて稼ぐ額を大きくするなどの努力をし、それが認められてやっと収入増加に反映されていく。努力をしてから結果が出るまでのタイムラグは非常に大きい。一方、「支出を減らす」ことは本当に簡単にできる(簡単に「実行できる」とは言っていないが)。まずは現状の可視化から始め、不要な支出がないかチェックし、本来どれだけの貯蓄力を持っているのかを知ることから始めよう。そして次は、FPの参考書でもお金の教育系YouTuberでもいいから、金融リテラシーをつけ始めよう。現代は知っている人と知らない人との間には大きな格差が生まれがちである。無知が原因で、金融業者から搾取されないよう、きちんとお金にまつわる知識は身に着けていくべきだ。

出典

  • 横山光昭『あぶない家計簿』(2018.11, 日経プレミアシリーズ)
  • Sendhil Mullainathan & Eldar Shafir (大田直子訳)『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』(2015.2, 早川書房)

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